♦ システム
当該システムは、暖房や温水などの熱利用に於けるボイラーの概念とは相対するシステムです。
これまでの熱採取の方法は、熱発生源であるボイラー炉内に石炭・灯油・重油それにペレットなどの燃料を投入し、これを燃焼させ高温に達したところで、熱交換器によりボイラー内の水も同時に高温にするという方法でした。
こういった方法は、従来から一貫して「燃す」という概念から離れる事は出来ず、蒸気機関を最初に利用した汽車の動力源も石炭を「燃す」だったのです。産業用・工業用での熱利用も価格変動の少ない重油など安価な燃料の使用に代わっているものの、基本的には燃料を「燃す」なのです。一般家庭の熱採取も薪から石炭、灯油、さらにガスと時代は代わっても「燃す」という事に拘ったのです。
私たちは、このモノを「燃す」から少し距離を置いて考えてみました。なぜなら、モノを「燃す」ことのデメリットが、想定以上に多かったからです。CO2発生を含め、燃料を燃すための設備が大掛かりになる。また、燃料購入費によるコスト増などもデメリットとして考えられます。
このような時に、過熱蒸気発生装置を知りました。これは従来からある技術ですが、主にモノの炭化や殺菌などに利用されています。これを熱源に利用出来るのではないかと考えました。なぜなら、モノを「燃す」場合の熱伝導は対流伝熱のみの加熱方法ですが、過熱蒸気は複合伝熱(輻射伝熱・凝縮伝熱・対流伝熱)作用により、4~5倍のスピードで熱交換が可能だからです。
これは、単純に既存燃焼方法と比較すると1/5程度のコスト削減、さらに1/5のCO2削減も可能になるという事です。しかし、蒸気を発生させる為には蒸気発生ボイラーが必要なので、実際の経費やCO2削減は1/2程度になるものと推測されます。まずは実証を繰り返しながら、 1/5のコストとCO2削減を目指すというのが当面の目標です。
次頁以降は、この事をさらに詳しく記載します。
1、蒸気
1-1蒸気機関から産業革命へ
1769年にジェームスワットが改良型蒸気機関を開発した。この発明はこれまでの生産手段や移動手段を大きく変えた。この変革はさらに家内手工業から工場制手工業に代わり、小規模家内生産から大規模工場制大量生産と生産量が莫大に増えて世界に広がった。これが、第一次産業革命(1760年代から1830年代)である。
ここで注目すべきがワットの発明した改良型蒸気機関である。蒸気機関は古代より幾数人の発明家や研究者が蒸気機関に取り組み研究・開発を重ねている。ワットはこれまでの蒸気機関の効率の悪さに目をつけて改良した。この発明が第一次産業革命の発端となった。
第一次産業革命は、生産手段や移動手段ばかり変えたのではなかった。海外との交易を蒸気機関による輸送としたことで、より遠く、より早く、そしてより大量の輸送が可能となった。イギリスはこの発明の最初に恩恵を受けた国で、産業革命で卓越した経済力と軍事力を得、これを背景に植民地を増やし、世界の覇権を握る事となった。イギリスの覇権が進む中、自由主義や重商主義それに植民地主義などの思想も世界に広がって現代思想の基礎理論へと繋がる事となる。
世界を一変させた蒸気機関とは何か、蒸気機関は古来より研究と開発が行われ、より効率的なシステムに代わっていくが、基本的には、水を沸騰し蒸気を発生させる。発生した蒸気は膨張する。これを冷却すると凝縮する。この膨張と凝縮の一連の工程から上下運動のエネルギーを作り出す。これが蒸気機関だ。蒸気機関はさらに円運動へと改良され、蒸気船や蒸気機関車の動力源となる。その後、蒸気機関は石油や電力の普及により急速に廃れていくものの、このシステムは石炭火力発電に引き継がれ、現在も利用されている。
1-2蒸気の特性
水は蒸気になる時に膨張する。しかし、膨張したまま長時間存在する事はない。蒸気として漂っている間に外気に冷やされて収縮する。蒸気が持つ特性はこれだけではない。
1-2-1熱伝導率
蒸気は熱伝導率が大きい事が挙げられる。熱の移動の大きさを表す指標に熱伝達率(=境膜伝熱係数)がある。単位は[W/(m2・K)](m2=平方m ・・・以下同じ)
温水と蒸気の熱伝達率を比べてみよう。
・温水熱源で熱交換器の伝熱面へ熱が伝わるときの熱伝達率1,000~6,000[W/(m2・K)]
・蒸気熱源で熱交換器の伝熱面へ熱が伝わるときの熱伝達率6,000~15,000[[W/(m2・K)]
このように蒸気の熱伝導率は温水と比べると、2倍以上の開きがある。蒸気はなぜこのように熱伝導率が高いのか。次の図をご覧頂きたい。
この図は氷から水そして蒸気(固体➜液体➜気体)に変化する状態変化の推移を表している。
1-2-2顕熱と潜熱
氷が溶けて水になるには、太陽の熱などで加熱の必要がある。しかし、氷から水に変化しようとする際に温度を測っても温度変化は確認出来ず、しばらくは同じ温度0℃が続く。これが潜熱である。加熱されているにも係わらず温度が一定の状態が続く、つまり0℃の氷と0℃の水は固体から液体に状態が変化しても温度は一定という事だ、また、温度100℃の水と100℃の水蒸気も同様に温度は一定だが状態は液体から気体に変化しつつある。
一方の顕熱は、加熱する事で温度は上昇し、温度変化は容易に確認出来る。それでは、潜熱は何処に消えてしまったのだろう。
実は消えてはいない。・・・・・・企業は、原料を仕入れ製品を作り、これを販売して売上代金を得る。売上代金は、仕入資金や販管費一般管理費など営業費用を差し引いて利益を確定する。顕熱は企業活動に於ける企業の価値だ。売上規模とか営業利益あるいは内部留保とかで企業価値は高まる。これは数値化出来るので目に見える。
しかし企業価値はこれだけではない。目に見えない価値が隠れている。ブランド力や従業員の質。技術力、それに時価総額など隠れた価値である。この隠れた価値が熱力学でいうところの潜熱だ。
顕熱は加熱する事で温度は上昇する。潜熱は温度の上昇はないが、状態が変化する。
企業活動ならば、売上アップはないものの、時価総額や将来性を見込んで上場を果たすというようなものだろう。状態は会社から上場企業に変化した。潜熱は、このように状態を変化させるパワーを有するエネルギーなのである。この潜熱が、熱伝導にはとても重要な事なのだ。この潜熱が蒸気熱源の加熱速度をアップする。蒸気は、いずれ凝縮して液体に戻るが、その瞬間に保有している潜熱を放出するのだ。先ほどの企業の例を持ち出すならば、上場した企業が売却する時に、時価総額など隠れた価値(資産)を放出するという事だ。この隠れた資産は、事業が生み出す利益よりも数倍も大きい。熱力学の潜熱も同じだ。蒸気熱源が熱風熱源と比べると2倍以上のエネルギーを有するのは、潜熱である凝縮熱に頼ることが大きい。
2、過熱水蒸気
この潜熱が液体に凝縮する際に放出して大きなエネルギーを発生させるという事は、とても重要な事なので理解して頂きたい。
さて、蒸気熱源は、温度変化が少なく、大きなエネルギーを有するため地域暖房やビル・工場等への熱供給源として使用されている。蒸気動力源としては発電所のタービン(主に火力発電所で使用)がある。しかし、蒸気動力源としての利用は当該事業外である。ここで注目したいのは、蒸気熱源である。蒸気の持つポテンシャルに注目したい。
先の図を再度ご覧頂きたい。水が加熱され、温度は上昇し、いずれは沸騰する。沸騰温度は100℃である。沸騰した水は蒸気に状態変化するので、ここでの温度は一定(先に紹介した潜熱=蒸気熱のため)である。ここからさらに熱を加えて行くと温度も上昇し、蒸気特有の湯気は見えなくなり無色透明の不活性ガス状となる。これが過熱水蒸気(Superheated steam)である。
蒸気と名が付くところから「濡れている」「湿潤」といったイメージが付きまとうが、決して濡れてはいない。濡れていないどころか、乾燥度合いは非常に高く、噴射する過熱蒸気の前面に紙などの可燃物を置くと燃えてしまう。樹木は炭化し、融点の低いアルミは溶けてしまう。つまり高速・高温加熱が可能なので金属熱処理・食品加工・滅菌・洗浄・乾燥分野で利用されている。
2-1熱の伝わり方
ここで熱の伝わり方について、説明したい。
熱の伝わり方(熱移動の3形態)は熱伝導、熱伝達、そして熱放射が在る。それぞれ詳しく見てみよう。
- 熱伝導 は、固体または流体内部に熱が伝わることを言う。
ここに一本の銅線がある。長さが20㎝~30㎝、重さ1㎏と想定しよう。銅線左側の端にバーナーで加熱すると右端にその熱が秒速で伝わる。右端を手で持つ事は出来ないだろう。このように物質内部において高温から低温へ熱が移動することを熱伝導という。
この特質は、固体または流体内部で高温部から低温部へ熱エネルギーが移動するが、逆方向の熱移動は起こらない。
➁ 熱伝達=対流 は、流体と固体間の熱伝達である。
➂ 熱放射=輻射 は、空間内での熱の伝わり方である。陽が射している日中は暖かく、太陽が雲で隠たり、陽が沈んだ夜は温度が低くなる。
輻射は、熱源が発する電磁波である。熱とは分子、原子、電子等の振動であり、これら粒子はプラスとマイナスの電化を帯びている事から、振動すると電磁波を照射する。振動が激しければ激しいほど、すなわち温度が高ければ高いほど、放たれる電磁波のエネルギーも強くなる。
もっと簡単に説明すると、
➀ 熱伝導:コンロの火がやかんに伝わる事。 ➁ 熱伝達=対流:熱が水の中を移動してお湯になる事。
➂ 熱放射=輻射:火の近くにいると暑くなる。
この基本の3つの熱の伝わり方を踏まえて過熱水蒸気の伝わり方を考えてみよう。
過熱水蒸気と熱風過熱の熱伝達を比べると上図のようになる。
熱風加熱は熱伝達=対流のみの加熱方法である(上記➁の伝わり方)のに対し、過熱水蒸気加熱は➂の幅射伝熱 ➁の対流伝熱 そして凝縮伝熱が挙げられる。この凝縮伝熱は、上記、熱移動の3形態の外にあり、蒸気ならびに過熱蒸気が持つ特有の伝熱方法である。
3-1 過熱水蒸気の特性と利用分野
過熱水蒸気はこれまで利用されなかった分野への進出が可能となった。まず、過熱水蒸気の特性を記す。
- 高温であるが常圧なので、取扱いが容易。これは設備の簡略化につながると同時に、爆発や火事などのリスクも大幅に低減する。従って、ボイラー取扱の資格も不要。
- 乾燥スピードが極めて高い。
- 蒸気の潜熱=凝縮熱で記したように大きい凝縮熱が得られる。熱風加熱と比較すると4倍~6倍(蒸気加熱の場合は約2倍)にも達するので高速昇温が可能。
- 凝縮は低温部より広がるため加熱ムラが抑制され、均一な加熱が可能。
- ボイラーの熱源は水であり、豊富に存在するうえ、安全である。
- 但し蒸気や過熱蒸気を発性させる為にはガスや電気等の熱源が必要である。
- 上記➄で発生した過熱蒸気を循環させる事で、省エネ、Co2削減に貢献。
以上の様な特性を有する事から、主に調理や殺菌の分野で使用されている。図表はシャープのヘルシオを産学連携で共同開発した大阪府立大学の引用である。
この表を見ると、脱臭・殺菌・処理調理などの分野に於いて過熱水蒸気が活躍している。この他にも、極めて高い乾燥能力を有しているため炭化などにも利用されている。
以上、過熱水蒸気の概略をまとめてみました。
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