籾殻は農業従事者が土壌改良剤や肥料、家畜敷料として再利用していたため流通段階では表舞台に顕れず、バイオマスの中でも控えめな存在でした。さらに、収集・保管の問題から大量収集は困難であり、農業法人や企業など大手の取扱い量も極めて少数でした。
しかし現在、自然エネルギーの期待や資源不足から籾殻が見直されて来ました。そこで、籾殻を核とした事業について説明したいと思います。
籾殻を燃す
「籾殻を燃すこと」については、三つの考え方があります。一つ目が籾殻を単純に燃料として使うという考え方。もうひとつが、籾殻から生成された焼却灰を利用するという考え方。三つ目は、籾殻から熱を得ると同時に、生成された焼却灰も利用してしまおうというちょっと欲張りな考え方。
1,熱を得る
固形燃料にして燃す
大量の籾殻を処分し熱を得る方法として考え出されたのが、籾殻を強く圧縮して棒状の燃料化にした固形燃料の「モミガライト」があります。薪ストーブの薪のように利用出来るのでとても使いやすいというメリットがあり、薪に近い熱量を得られるので薪の代用としては、とても適しています。
しかし、モミガライトはバッチ式で、連続投入が出来ないため長時間の使用には適さないでしょう。もしモミガライト燃料を長時間利用したいのであれば、モミガライトをプールしておくホッパーと連続投入するための送り出し機が必要になります。
2,燃焼後の焼却灰を生成する
籾殻を燃料にする方法は古今東西で考えられ、籾殻を燃焼する装置が研究開発されてきました。最もシンプルで簡単な燃焼装置は籾殻の山に煙突を立て、籾殻を内部でゆっくりと炭化していく方法でした。この燃焼方法は熱の利用よりも、籾殻炭を生成して籾殻炭を土壌改良剤として利用するのが目的でした。
この方法では熱の利用は考えていなかった様です。大量の籾殻を処分する方法として燃す事に重点をおき、生成された灰を肥料等に利用する事を考えていました。しかし、この方法も幾度か説明した通り、野焼きの禁止から次第に姿を消していきました。
籾殻を燃して熱を得る方法は、上記に示したようにモミガライトのように固形燃料化し加工した上で燃焼機を用いて燃焼させる方法と、単純に籾殻をそのまま燃す方法があります。但し、①が熱を得る。②が炭化した籾殻や焼却灰を生成し、土壌改良剤や肥料を作るという目的が違います。
しかし、どうせ籾殻を燃すなら、①熱を得て、②焼却灰が利用できる燃焼の仕方が一番良いと思うので、次にこの方法を紹介します。
3,熱と生成灰を得る。
籾殻を燃す事で熱は得られます。しかし、生成された焼却灰を利用するところまで持って行くためには、容易ではない技術が必要となるのです。この二つの熱利用と生成灰利用はトレードオフ(一方を活かすと他方を失う)の関係です。少量であれば上記2の「燃焼後の焼却灰を生成する」のように籾殻の山に煙突を立て内部で低温で長時間燃焼させる事で良質のもみがら燻炭や焼却灰が生成されます。しかし、大量の熱と大量の生成灰の両方を手にする事はとても容易ではありません。だから冒頭で述べたように欲張りな考え方なのです。
と言っても、人間は元来欲張りなので、二兎を得る方法を苦労に苦労を重ねてやっと見つけ出しました。それは後程紹介します。その前に、熱利用と生成灰利用はトレードオフの関係をもう少し詳しく説明します。
低温で長時間燃焼させる
焼却灰の利用について農研機構のレポートに「籾がら焼却灰を施用してイネいもち病の発病を抑える」というのがあります。この中で「籾がら焼却灰を施用した場合の効果は、ケイカルなど他のケイ酸資材を施用した場合と同等でした。籾がら焼却灰を一般の水田に施用した場合、水稲に悪影響もなく健全に生育します。」さらに「一口に籾がら焼却灰と言っても、炭化した籾であればどのようなものでも効果が期待できるわけではありません」《低温燃焼で作られた籾がら焼却灰でなければ効果なし》と報告されています。
つまり、「籾殻焼却灰はイネいもち病などの発生を抑えるのに有効である」「低温燃焼で作られた籾がら焼却灰でなければ効果なし」という研究結果です。この低温燃焼というところが、曲者です。普通の燃焼機器で燃焼させると温度が自然に上昇します。燃料を加えれば、さらに上昇して行きます。この燃焼の上昇を抑えて低温燃焼(400℃~500℃)で維持していかないと良質の焼却灰は得られないのです。燃焼の上昇を抑え切れないと良質どころか逆に有害な焼却灰が生成されてしまうのです。
農研機構のレポートに戻ります。この中で「900°C以上の高温で炭化した籾がら焼却灰では、ケイ酸成分が水に溶けなくなるので、ケイ酸資材としての効果はありません」とあります。このケイ酸資材とはシリカを核とする原料です。水に溶けなくなるとは一体どういう事でしょう。高温で燃焼した籾殻のシリカは結晶質(クリストバライト)になりやすく、結晶質になったシリカは水に溶けにくいという事なのです。結晶質シリカで構成されるケイ酸成分が水に溶けにくくなれば、その効果も無くなるのです。
籾殻には概ね20%のシリカが含まれています。燃焼する事で籾殻は燃え尽き灰になる他、純度の高いシリカ灰が残ります。このシリカ灰から農業用、建築用、工業用、医療用に使用される原料となるシリカが抽出されるのです。籾殻を低温燃焼して生成された灰にはこのように結晶していないシリカ(アモルファスシリカ)が生成され、ケイ酸資材としての効果が期待できるのです。
前文にて、低温燃焼でないと「逆に有害な焼却灰が生成されてしまう」と記載しましたが、これはどういう意味でしょうか。実は結晶質シリカ(クリストバライト)は発がん物質なのです。この事は農水省のサイト国際がん研究機関(IARC)の概要で説明しています。しかし農水省のサイトでは具体名を掲げていないので、IARCの掲載サイトまで行かないと確認出来ません。しかし、英文で分かりづらいので、下記に「がん部位別分類一覧」の箇所を表示したのでご覧下さい。
「IARC発がん性分類」の赤字で記載のがん部位別分類一覧に、PDFファイルがあります。「肺がん ヒトで充分な証拠がある発がん性物質」はそのPDFデータの中の5頁にあたるシリカのクリストバライトが記載されている箇所が分かるように示しました。
管理された自動燃焼
燃焼によって有害物質の発生を抑えて、燃焼熱を利用出来かつ非結晶質のシリカをを多く含んだ燃焼灰を生成出来ないか。と考えるのは当然誰でもが思い描きます。しかし、そこには前述したように、解決しなければならないかなり難しい問題が立ちはだかりました。つまり、エネルギー化を優先すると、クリンカが形成され燃焼効率が低下するのに加え、結晶質シリカが生成され、燃焼灰の利用が難しくなる。一方、生成灰を優先すると、低温燃焼に頼らざるを得ないため熱利用の効率が低下する。という二律背反の関係として存在しているためです。
この二律背反の問題を解決すべく立ち上がったのが「もみ殻循環プロジェクト」です。この「もみ殻循環プロジェクト」は、富山県射水市を中心とする産官学で構成されたチームです。開発技術を元に、地元の工業炉メーカーである北陸テクノ株式会社により、燃焼障害等を起こさないための燃焼温度や炉内圧力の調節など、きわめて難しい炉の温度制御に成功。クリンカーを発生させることなくもみ殻灰を生成することで、水稲をはじめとする農作物の土壌改良肥料として近年注目されるケイ酸を抽出することが可能となり、もみ殻のリサイクル技術の確立が実現しました。
従来より北陸テクノ株式会社は、もみ殻を熱処理し、エネルギー化と灰をシリカとして資材化する取り組みを行ってきました。 もみ殻に含まれるシリカの活用には非晶質で可溶性であることが不可欠です。 これら課題に対しプロジェクトチームは、炉内コントロールによりエネルギーと高純度非晶質もみ殻シリカ灰の生産についての技術を新たに確立しました。これにより、農業分野・工業分野・食品添加物等、用途に応じて「もみ殻シリカ灰」を製造することが可能になりました。定温安定燃焼技術だけで生産できることから、安価にシリカを抽出できます。さらに生成されたシリカは結晶化していないため安全なのです。
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